岡山地方裁判所 昭和39年(行ウ)8号 判決 1970年8月13日
倉敷市南町六番一号
原告
斉藤竹郎
右訴訟代理人弁護士
甲元恒也
倉敷市幸町
被告
倉敷税務署長
滝沢満郎
右指定代理人
吉富正輝
同
浅田和男
同
石田金之助
同
岸田雄三
同
常本一三
同
岡本常雄
同
金沢昭治
同
小瀬稔
同
平山勝信
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
原告
被告が原告に対し、昭和三八年三月六日付でなした、原告の昭和三五年度の所得税の譲渡所得金額を九九四万〇九九九円(広島国税局長の裁決により九四〇万五九九九円に変更)とする更正処分のうち、三三万六八〇〇円を超える部分は、これを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
被告
主文同旨の判決
第二当事者の主張
一 原告
(一) 被告は、昭和三八年三月六日、原告の昭和三五年度における所得税の譲渡所得金額を九九四万〇九九九円これに対する課税額を四一三万五四〇〇円と更正し、その頃更正通知書を原告に送達した。原告は右更正処分につき被告に対し異議を申立てたが、棄却されたため広島国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は、昭和三九年九月二五日、譲渡所得金額を九四〇万五九九九円、課税額を三八六万七九五〇円とする旨裁決し、同年一〇月二日頃、裁決書を原告に送達した。
(二) しかしながら、原告の右年度における所得税の譲渡所得金額は三三万六八〇〇円にすぎないから、被告の前記更正処分のうち右金額を超える部分の取消を求める。
(三) 被告の主張する原告の譲渡所得についての事実は争う。
1 原告は、昭和三五年度中に倉敷市水島明神町三丁目八四番宅地二六一坪のうち一三四坪および同所八四番の二四宅地一、七一二・二坪(以下、単に、それぞれ地番のみを略称する。)について、売買の当事者となつたことはない。
2 また、同年度中に同所八四番の二五宅地一、〇八〇坪(以下、単に、地番のみを略称する。)を他から譲受け他に譲渡したことはあるが、それは原告が単独でしたものではなく、譲受価格および譲渡価格ともに、被告の主張は事実と相異する。
すなわち、原告は、訴外塩尻仙市(以下、単に、塩尻という。)、同斉藤菅次郎(以下、単に、菅次郎という。)と利益を互に均等にわかちあう目的の下に、共同で、昭和三五年六月一三日付売買契約をもつて訴外池点祚より代金一六九六万九〇〇〇円で買受けたが、これが登記については、同年一〇月一二日付で信託的に原告の単独名義とした。そして、原告ら三名は、同年一〇月一一日頃、同土地を訴外高田英夫、同小田政男両名に代金一九四四万円で売渡したものであり、右譲渡による原告自身の譲渡益は、右差額二四七万一〇〇〇円の三分の一にあたる八二万七〇〇〇円である。
なお、同土地の取得価格一六九六万九〇〇〇円の出捐の明細は次のとおりである。
(イ) 二七四万円(被告主張の(三)の4の(4)の(イ)に対応する。)
訴外池点祚が国から同土地を買受ける際、原告が同訴外人に融通した買受代金相当額一四七万円同訴外人の国に対する賃料滞納分四二万円および同訴外人が支払うべき原告との間の売買仲介手数料一二万円、その他右融資金の利息等合計二七四万円を支出した。
(ロ) 二九〇万円(同(ロ)に対応する。)
右訴外人が買受けた倉敷市福田町浦田江ノ口二、五七三番の一四宅地外三筆および同地上家屋の売買代金は二九〇万円であり、その代金相当額を八四番の二五の土地の売買代金の一部として右訴外人の内妻神崎敏子に交付した。
(ハ) 二六九万円(同(ハ)の本文に相当する。)
右訴外人の内妻神崎敏子に対して小切手により支払つた。
(ニ) 一八〇万円(同(ハ)の( )書に対応する。)
右訴外人は内妻神崎敏子の作業場とするために倉敷市福田町北畝四〇九番一、畑七畝二九歩外一筆を買受けたが、その代金相当額を八四番の二五の土地の売買代金の一部として支払つた。
(ホ) 三七四万四〇〇〇円
右訴外人の訴外鈴木某に対する債務を、原告、訴外塩尻、同菅次郎三名の支払担当者として、訴外塩尻において支払つた。
(ヘ) 一五二万円
右訴外人の訴外西尾某に対する債務を、原告、訴外塩尻、同菅次郎三名の支払担当者として訴外塩尻において支払つた。
(ト) 一七万五〇〇〇円
右訴外人より原告に対する八四番の二五の土地の所有権移転登記のために、同訴外人が支払うことになつていた登録税、代書手数料を、原告がこれに代つて支払つた。
(チ) 八〇万円
右訴外人の子池順洋に対して支払つた。
(リ) 六〇万円
右訴外人は本件物件上に存した建物を収去して更地としたうえ、原告に引渡すことになつていたところ、原告は同人の依頼でその収去作業を代つて行うにつき所要入費として支出した。
訴外高田英夫らは、同年一一月中旬頃、同土地を訴外小林長太郎に売渡したが、登記簿上は同月一九日付で、中間省略の方法をとり、原告から直接右訴外小林に所有権移転がなされたように記載されている。
3 したがつて、原告の譲渡所得金額は、八四番の二五の売買による譲渡益八二万七〇〇〇円から一五万円の控除額を減じた額の二分の一、つまり三三万六八〇〇円となる。
二 被告
(一) 原告主張の(一)の事実は認める。
(二) 被告が原告主張の更正処分をした根拠は次のとおりである。
原告は、昭和三五年度中に、八四番、八四番の二四、八四番の二五の各土地を次表のとおり他から買入れて、訴外小林に売却し、一八九六万一九九九円の利益を得た。これを所得税法(昭和二三年法律第二七号、昭和三八年法律第一五三号最終改正のもの。)第九条第一項第八号により所定の計算をすると、原告の昭和三五年度中の譲渡所得金額は九四〇万五九九九円となる。
<省略>
(三) 右各土地の譲渡および取得状況(右(イ)(ロ)の詳細)は次のとおりである。
1 八四番、同番の二四、同番の二五の譲渡について
(1) 譲渡先 訴外 小林長太郎
(2) 日時 昭和三五年一一月
(3) 譲渡価格 三三九九万六〇〇〇円
イ 八四番の二五 二四八四万円
ロ 八四番・同番の二四 九一五万六〇〇〇円
(4) 代金受領の明細
<省略>
2 八四番の二四の取得について
(1) 購入先 訴外 天納昌子
(2) 日時 昭和三五年九月
(3) 取得価格 三六〇万円
(4) 右出捐の明細
<省略>
3 八四番の取得について
(1) 購入先 訴外 池二祚
(2) 日時 昭和三五年九月
(3) 取得価格 二〇七万円
(4) 右出捐の明細
<省略>
4 八四番の二五の取得について
(1) 購入先 訴外 池点祚
(2) 日時 昭和三五年一〇月
(3) 取得価格 八七六万四〇〇二円
(4) 右出捐の明細
(イ) 一四七万四〇〇二円
八四番の二五の土地は、もと国有地であり、訴外池点祚がこれを財務局より買受けたのであるが、原告において、その代金一四二万六四〇五円および支払遅延利息金四万七五九七円を右買受人たる池のために支払つた。
(ロ) 二四〇万円
訴外池点祚が買受けた倉敷市福田町浦田江ノ口二五七三番の一四宅地外三筆および同地上家屋の売買代金を同訴外人のために支払つた。
(ハ) 二六九万円
訴外池点祚の内妻神崎敏子に対して小切手により支払つた。(これは、同人名義で広島銀行倉敷支店に預金され、同人が倉敷市福田町北畝字ツ割一升四〇九番宅地一筆を買受ける際、このうちから代金支払がなされている。)
(ニ) 八〇万円
池田組(訴外池点祚の砂利採取業を経営するについての商号)の債務を、これに代つて支払つた。
(ホ) 一二〇万円
訴外池点祚の訴外塩尻に対する債務の元利金を、これに代つて支払つた。
(ヘ) 二〇万円
訴外池点祚の訴外平方某に対する債務を、これに代つて支払つた。
(四)1 原告主張の(三)の2の(ホ)について
訴外鈴木某ないし同人が代表取締役をしていた玉島殖産株式会社に対して訴外池点祚が債務を負つていた事実は存しないし、したがつてまた、原告主張のように訴外塩尻がこれらの者に対してその主張の弁済をしたことはない。
2 同(ヘ)について
訴外西尾某なる者はその実在性自体が疑わしく、いわんや訴外塩尻がこれにその主張の弁済をしたなどということはない。
3 同(ト)について
訴外池点祚が負担する約定であつたと原告自らが主張する本件物件の移転に要するその主張の費用が取得価格を構成するいわれはない。
4 同(チ)について
原告が支払つた事実は全くない。
第三証拠
原告
甲第一ないし第一五号証(第一三号証は写)を提出し、証人塩尻仙市、斉藤菅次郎、高田英夫、小田政男、西村勇平、千田亀進治、浅田弘義、大成卓美の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第一、二、一六号証、第一七号証の一ないし六、第一八号証の一ないし一一二、第一九号証の一ないし七三、第二〇号証の各成立を認め、その余の乙号各証の成立については知らない。
被告
乙第一、二号証、第三号証の一ないし三、第四ないし第一六号証、第一七号証の一ないし六、第一八号証の一ないし一一二、第一九号証の一ないし七三、第二〇号証を提出し、証人大賀啓作、守屋速雄、竹久幸造、小林長太郎、大成卓美の各証言を援用し、甲第一ないし第一〇号証、第一三ないし第一五号証(第一三号証については原本の存在も)の各成立を認め、その余の甲号各証の成立については知らない。
理由
一 原告主張の(一)の事実については、当事者間に争いがない。
二 本件更正処分に取消すべき瑕疵があるか否か、またその取消すべき限度は如何という点については、原告の昭和三五年度中における譲渡所得金額が果して幾何であるかということにかかつているのであるから、以下この点について検討する。
原告が八四番の二五の土地を右年度中に、訴外池点祚から買受けて取得し、ついでこれを他に売却したことおよび右取得にあたつて、右訴外人が該土地を国から買受けるに要した代金等を同訴外人のために支出したり、その内妻神崎敏子に対して右訴外人が支払うべき倉敷市福田町浦田江ノ口二五七三番の一四宅地外三筆とその地上の家屋の売買代金を支払つてやつたり、そのほか右神崎敏子に二六九万円を小切手で支払つたこと、そして原告が本件土地の上に存する建物を収去してこれを更地として売却するため六〇万円を支出したことは当事者間に争いがなく、以上の事実と、成立に争いのない甲第一ないし第一〇号証、乙第一、二号証、第一七号証の一ないし六、証人大賀啓作の証言により成立を認めうる乙第三号証の一、二、証人竹久幸造の証言により成立を認めうる乙第四ないし第一四号証、証人高田英夫の証言により成立を認めうる乙第一五号証、証人大賀啓作、守屋速雄、竹久幸造、小林長太郎、高田英夫、小田政男、塩尻仙市、西村勇平、浅田弘義の各証言(ただし、以上いずれも後記認定に反する部分は措信できないから除く。)に弁論の全趣旨を総合すれば次の事実を認めることができる。
本件八四番の二五の土地は、もと国有地であつたが、訴外池点祚がこれを占有しており、水島地区に存する国有地は右土地をも含めて、これが占有者に優先的に格安で払下げられる実情にあつたため、右訴外池も右土地の払下げを受けることとなり、その資金調達を原告に仰いだところ、原告は昭和三四年五月八日、これに応じて払下代金等一四七万四〇〇二円を訴外池のために国に支払い右土地を訴外池名義としたが、他方、原告ならびに訴外池と知り合いであつた訴外塩尻は、訴外池に対してその頃から貸金等の債権を有しており、その他にも訴外池に債権を有していた者があつたので、原告は右土地の払下げとともにその売却方を訴外池にすすめ、これが売却代金から債権の回収を図り、かつ訴外池としても、その負つている他の債務をも支払うことができるので、右土地の所有権を、さきに払下代金を出捐してもらつた原告に売買名下に移転し、原告がこれを他に転売したならば、その売却代金をもつて右訴外池の訴外塩尻等に対する債務を支払い、かつ内妻神崎敏子に対して被告主張の土地家屋などを購入してその移転先を確保する等面倒をみてもらうということで、昭和三五年九月三〇日その旨の契約を結び、その後同年一〇月一二日原告は所有権移転登記を受けた。そしてその頃原告は右土地の売却先を探していたが、たまたま原告の友人である訴外浅田弘義からこのことを聞知した訴外高田英夫、小田政男が、右浅田とともに右土地を買受けたいということで、原告との間で、代金を一九四四万円と定めて売買の話ができたけれども、これが代金支払は右訴外人等もまた更に転売しなければなしえない実情にあつたところ、訴外西村勇平、千田亀進治、高畠真佐子らを介して有力な買手として訴外小林長太郎があらわれ、同人は取引の安全を期して登記名義人から直接買受けたい旨の意向を強く述べたので、原告はさきに話のあつた高田、小田らの了解をえたうえ、右小林と右土地の売買の交渉に入つたが、小林はこの土地に隣接する八四番、八四番の二四の土地も一括して買受けることができれば、形状としてまとまつた土地を取得することができるところから、その旨の希望を述べ、原告はこれに応じて、被告主張のように、これらの土地を夫々所有者たる訴外池二祚、天納昌子からその頃買取り、結局、同年一一月一九日に以上三筆の土地を被告主張の代金額で売却した。原告は、右小林から、同日、売却代金中三〇〇万円を現金で、同年一二月六日残三〇九九万六〇〇〇円を小切手ないし現金で受領し、以上の入手金のうちから、八四番、八四番の二四の土地のもとの所有者たる前記池二祚、天納昌子に対し、被告主張のようにそれぞれ二〇七万円、三六〇万円を原告の各買受代金として支払い、かつ、八四番の二五の土地関係については、もとの所有者たる前記訴外池点祚との約束にしたがつて、その頃訴外塩尻に対し、右訴外人の債務を一二〇万円支払つたほか、被告主張のように同訴外人の旧債を各支払い、また、同訴外人の内妻神崎敏子に対し二六九万円を交付したうえ、同人のために被告主張のように別の土地家屋の購入代金として二四〇万円を支出した。なお、原告は右のほか、本件土地を更地として売却するため、その地上の建物を収去するにつき六〇万円を売却前頃に支出した。
以上のとおり認めることができ、証人斉藤菅次郎の証言、原告本人尋問の結果中、右認定に牴触する部分は措信できない。
右事実によれば、原告は昭和三五年度中に、被告主張の三筆の土地を購入し、これを訴外小林長太郎に転売したのであつて、その譲渡価格、取得価格、譲渡費用はすべて被告主張のとおりであると言わざるをえない。
原告は本件において、八四番の二五の土地につき、被告主張の取得価格を超えて、これに算入すべき支出のあつたことを主張するのであるが、弁論の全趣旨に徴し明らかなように原告は本件更正処分の効力を争いながら、税務署の調査、審査請求後は協議官の調査、そして本件訴提起後は事件の審理の過程を通じ、終始一貫して、その主張を裏付けるべき書証等の確証たりうべきものを提出することなく、却つて成立に争いのない乙第一八号証の一ないし一一二、第一九号証の一ないし七三および弁論の全趣旨により、前記入手金額を仮空名義その他の方法で隠蔽し、追及をまぬがれようとした形跡のうかがわれる点を彼此勘案すれば、被告主張の取得額を超える原告主張のそれは存しないと認めざるをえない。
もつとも、証人大成卓美の証言および弁論の全趣旨によれば、原告が小林長太郎から売却代金を受領して帰り、前記のようにこれから池点祚の旧債の支払などにあてる際、原告から当初八四番の二五の土地を買受けていた訴外高田英夫が、その席に顔を出していたことを認めることができ、また証人高田英夫、小田政男は、その後同人らが原告から受領したなにがしかの金員で飲食遊興した旨供述しているので、これらの事実を総合すれば、原告が小林長太郎との売買契約を結ぶ以前、一旦は右高田らに八四番の二五の土地を売ることにした経緯の存する手前、これを破約する了解をとりつけるにあたつてなした話の過程から、何がしかの金員を前記入手金のうちから右高田らに交付したのではないかということを推測しえないでもないのであるが、この点についても、被告は前顕乙第一三ないし第一五号証に徴し、直接協議官において、右高田、小田に面接して調査を遂げたにもかかわらず、この間の事情をなんら明らかになしえなかつたところからすれば、もし、右趣旨の金員が仮りに高田らに渡つていたとしても、被告において、これを譲渡費用として計上するに由なかつたのもやむをえないとなさざるをえないうえ、原告は本訴においても、本件売買につき、当裁判所が認定したところと牴触する右高田、小田らへの売買の事実を主張して、これと矛盾する右金員交付の額、日時等につき、その内容を明らかにしようとしないので、結局これを認めることができないものである。
以上の次第であるから、これらの前提の下になされた、広島国税局長の裁決による減額修正を受けた限度における本件更正処分は相当であり、原告主張の取消事由は存在しないから、したがつて本件請求は理由がなく、これを棄却すべきものである。
よつて、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 裾分一立 裁判官 米沢敏雄 裁判官 近藤正昭)